1.はじめに
前回の記事では、緑茶の荒茶(あらちゃ)加工の大まかな流れについてご説明しました。
殺青(さっせい)から揉捻(じゅうねん)、精揉(せいじゅう)、そして乾燥と、荒茶の加工だけでも大きく7~8つの工程を経てやっとできあがるわけですが、皆さんの手元にこの荒茶のままでお届けされることは決して多くありません。
多くの場合、荒茶は茶畑・荒茶生産の現場に近い農家・組合などと、各消費地にある茶商さんなどお茶問屋との間で流通します。そして、主にこの消費地の茶商さんなどがこの荒茶をさらに『仕上げ加工』して、皆さんの手元に茶葉商品として届けてくれているのです※1。
今回は、そんな緑茶の仕上げ加工の工程について、狭山茶農家 ささら屋が行っている主な流れ※2を例にご紹介したいと思います。
お茶農家や各地の組合、茶商さん・茶師さんによって、使っている機械や加工の工程、そのこだわりには個性がありますので、今回の記事はあくまで一例としてご覧頂けたなら幸いです。
それでは、『ささら屋のお茶が皆さんのお手元に届くまで』の仕上げの過程を、工場見学感覚でご覧ください!
※1:この際、お茶商さんは複数の産地・農家の多様な茶葉を混ぜ合わせ(=合組:ごうぐみ と言います)、毎年その品質を均一に担保して、お茶を消費者の元へ届けてくれています。
※2:狭山茶農家 ささら屋としては加工場を保有しておらず、お世話になっている農家様に加工場をお借りして作業をしております。
2.仕上げ加工の工程
①篩(ふるい)がけ
仕上げの最初の工程は、大きさによる茶葉の選別です。
仕上げる荒茶の品質はどうか、最終的にどのような仕上げ茶を作りたいのか、想定する販売価格と合わせて複数の要素を勘案し、上段下段、それぞれの篩の目の大きさを決めていきます。
大まかにいうと、篩の目を細かく仕上げれば仕上げるほど、『本茶(ほんちゃ)※3』としてよい部分だけをより分けることができますが、十分に質がよい茶葉も悪い方へとふるい分けられ、歩留まりが悪くなります。他方、篩の目を大きくすれば、歩留まりは上がりますが、仕上がったお茶にはあまり質の良くない茶葉も入り込むことになります。
次に、ふるい分けされたそれぞれの茶葉の出口に茶葉をためるための箱を設置します。
画像に移っていないものを含め、箱は4つ(最大5つ)設置するのですが、4つの各箱には左から頭茶(あたまちゃ)と呼ばれる大柄な茶葉、芽茶(めちゃ)・粉茶(こなちゃ)と呼ばれる細かい茶葉、仕上げ茶の大本命である本茶(ほんちゃ)、そして、少し節の長い細撚れのお茶が入ってきます※4。
こうして、篩・箱のセッティングが全て完了したら、コンベア部分へ荒茶を投入していきます。
投入された荒茶はコンベアを上り、上段の篩にかけられて大柄な頭茶と適度なサイズの芽茶・本茶に分けられ、次いで芽茶・本茶が下段の篩でより分けられていきます。
こうして、先ほど設置した各箱の中には、ふるい分けされたお茶葉が貯まっていきます。
※3:一番茶の場合、いわゆる上級以上の煎茶として皆さんの手元に届くお茶とほぼ同義です。
※4:質の良い荒茶の場合。質の悪い荒茶の場合、さらにもう1段階大柄な茶葉がより分けられます。 なお、画像の箱は芽茶・粉茶の入る箱から3つが映っています。
②風の力による選別
次に、先ほど篩で取り出した本茶、そして、芽茶・粉茶をそれぞれ風選機(ふうせんき)にかけます。
本茶の場合、篩がけを終えた時点でケバ※5やちぎれ葉が少なければ風選をかけないこともありますが、よりよい仕上げ茶を目指す場合、まずこの風選機でケバ・ちぎれ葉を飛ばして取り除きます。本茶は一定の質量があるため、少し風を強めに当てることもあります。
他方、芽茶・粉茶の場合、狭山茶農家 ささら屋では芽茶を最終的に本茶へと混ぜ込むことがほとんどなので、この風選機を使ってしっかりと芽茶を粉茶・ケバと分けて取り出していきます。この際の風の調整は非常に重要で、芽茶の良い部分を残し、悪い部分や粉茶・ケバを取り除けるよう、しっかりと選別後の茶葉の様子を見ながら風量を調整していきます。
こうして、風選機を使ってより質の高いお茶の部分を取り出していくのです。
※5:揉捻の過程で茎の部分などからはがれ落ちたような薄くて軽い茶葉
③色による選別
風選機にかけた本茶を、今度は色選機(しきせんき)と言われる機械に通していきます。
この時点で、本茶はケバや芽茶といった軽い部分は取り除かれていますが、まだ赤棒や古っ葉、枯れ葉※6が入っていることがあります。そこで、緑茶葉とは色の異なるこれらの『ゴミ』を取り除いてくれるのが、この色選機です。
色選機は、緑茶葉と色の異なるものを感知して風で撃ち落とす仕組み。バチバチと音を立てながら、茶葉の中の異物を弾き飛ばしてくれます。
この色選機にかけられると、赤棒や古っ葉、白い茎の部分などを取り除くことができ、ツヤのある上質な本茶を取り出すことができます。
※6:冬を超えた枝葉で、茶色く硬化した枝を赤棒、硬くなった葉を古っ葉と呼びます。枯れ葉はその名の通り、枯れて茶色く変色した茶葉のかけらなどです。
④節の長い大きな茶葉の処理
最初のふるい分けの工程で、一番右側の箱に貯まると説明した少し節の長い、大きな茶葉。
この大きな茶葉は、しっかりとよられた茶葉であり、決してその質は悪くありません。しかし、このまま本茶に混ぜ込むと茶葉の外観として統一感がなくなるため、裁断機にかけてサイズを整えます。
裁断機にかけ、本茶に入れて外観を損なわないサイズになったら、先に説明をした本茶と同様に風選機、色選機にかけ、本茶に混ぜ込んでいきます。
⑤最後の仕上げ『火入れ』工程
ここまでの工程で、荒茶はそれぞれ本茶、頭茶、粉茶、茎茶、ケバなどに分けられます。これらの各茶葉が一緒になっていた荒茶と比べると、本茶などは特にその大きさが均一で艶やか、パッと見ただけでも、外観の違いを感じることができます。
■左が荒茶/右が仕上げ茶
ここで最後に実施するのが、『火入れ(ひいれ)』と言われる総仕上げです。
茶葉は荒茶の状態で水分含有率は約5%となりますが、ここまでの仕上げ加工で人の手に触れたり、空気中の水分を吸ってしまったりするため、最後に改めて加熱、乾燥させて保存性を高めるのです。
さらに言えば、この工程はただ保存性を高めるためのものではありません。
この火入れの温度、風量、時間によって、仕上りの茶葉の味わいが大きく変わる、非常に重要な工程なのです。
そのため、この総仕上げを行う前には一度ここまでで分類した茶葉をそれぞれ試飲し(検茶と言います)、最後の火入れの強さ・時間の方向性を決めていきます。
狭山茶農家 ささら屋の場合、例えば品種の個性を活かしたい『いぶき』や『のどか』は低めの温度で比較的短い時間火入れを行います。他方、甘みを引き出したい『さくや』に使うやぶきた・さやまかおりは、先ほどの『いぶき』『のどか』よりは相対的に高い温度で長めに火をいれます。
さらに、火香(ひぃか)と呼ばれる甘く香ばしい香りを付けたい場合は、高めの温度でやや長めに火をいれるのですが、ささら屋の『ひより』などは特にこの火入れを強く行い、この火香をしっかりとつけてあげます。
■狭山茶農家 ささら屋の各仕上げ茶
因みに、この火入れの際に送る風量によっても最終的な茶葉の香りが変わってきます。
私はまだまだスキルが十分ではなく勉強中ですが、各茶農家や茶商・茶師の皆さんは、この加工工程で感じる香りや茶葉の状態を敏感に察知し、火入れの時間や強さを適宜柔軟に変更していくのです。
ここまででお分かりの通り、この最後の火入れは特に繊細で、高いスキルの必要な難易度の高い工程になります。
皆さんの飲んでいるお茶は、こうした職人技にも支えられて食卓へと届けられているわけです。
3.おわりに
今回の仕上げ加工の工場見学、いかがだったでしょうか。
前回ご説明した荒茶加工から、今回ご説明した仕上げ加工までを経て、ようやく皆さんのお手元へと届く「日本茶」ができあがります。
ちなみに、荒茶加工も仕上げ加工も単純な数値だけを見て機械的に行うことの方が難しい。どうしても、各茶葉の様子を見て、触れて、細かい調整が求められます。
言い換えれば、機械化の進んだ今日に至っても、やはりお茶づくりは職人的な魅力と面白さを残しているのです。
個人的には、私もそんな職人的な魅力・面白さにとりつかれた一人。
まだまだ勉強中の身ではありますが、お茶の世界は本当に奥が深く、面白いものです。
心安らぐひとときを 一杯の日本茶とともに。
それでは、また。
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