かぶせ茶は、「玉露茶と煎茶の良いトコ取りをしたお茶」とも言われる、緑茶の1種です。
名前から想像がつくかもしれませんが、『かぶせ茶』の茶葉はいわゆる煎茶とは収穫前の育て方に違いがあります。
1.かぶせ茶の生育方法と成分的な特徴
かぶせ茶は、玉露や抹茶と同じく収穫の前に藁や寒冷紗をつかって日光をさえぎって育てます。
しかし、この被覆(ひふく)期間は玉露や抹茶よりも短く、おおよそ1週間~10日ほど。
多くは、茶の樹に直接被覆資材をかける『じかがけ』という方法が取られます。
埼玉狭山の地でも、露地の直掛けでこのかぶせ茶(多くは上級煎茶として販売されているようです)が作られているのを見かけます。
こうして、期間は短くとも玉露や抹茶と同じく収穫前に日光をさえぎって育てるので、煎茶に比べると旨み成分のテアニンの量が多くなります。
また、少ない日光で光合成をするべく葉緑素(クロロフィル)が多くなるため、相対的に緑の鮮やかなお茶に仕上がるのです。
2.良いトコ取りのかぶせ茶の特徴
では、なぜ玉露や抹茶よりも被覆期間を短くした『かぶせ茶』というお茶が存在するのでしょうか?
ひと言でいうならば、「煎茶よりも上質だけど、玉露まで上質すぎない」バランスのよいお茶をお届けするために、この「かぶせ茶」が作られています。
まず、玉露や抹茶は被覆期間が20~30日と長く、テアニンに由来する旨みの強いお茶なのですが、日光がさえぎられてしまうために芽の伸びは相対的に悪く、収穫量が少なくなります。
また、品質の高い、強い旨みのお茶は単品で楽しむうえでは非常に魅力的ですが、ご飯のおともや普段の水分補給といった日常の中では適さない部分があります(もちろん、個人の好みにもよります!)。いわば、『特別な時の特別なお茶』になるわけですね。
収穫量が少ない品質の高いお茶となれば、当然価格も上がるので、普段使いにするのが難しくなる側面もあります。
他方、被覆をしない露地栽培の茶葉は、しっかりと新芽が成長するために収穫量は安定して多くなるのですが、収穫タイミングが遅れてしまうと一番茶でも日光に当たりすぎ、やや硬い葉が多くなり、相対的に旨みが弱くなる場合があります。
その点収穫前に被覆をしてしまえば、テアニンからカテキンへの化学変化が抑えられ、仮に天候などの都合で収穫タイミングが前後しても、上質な煎茶を作ることができます。
もちろん、被覆をして摘採適期にばっちり収穫することが肝要であることは言うまでもなく、上質なかぶせ茶葉は旨み・甘みと苦み・渋みのバランスのよいとてもおいしいお茶になります。
そんなわけで、玉露茶の品質・旨みの強さ、煎茶の収穫量とお手頃な価格帯といった双方のバランスをとって、お手ごろでいて旨みのある“おいしい状態”で皆さんにお届けできるのが、この『かぶせ茶』なのです※。
※価格等は千差万別、ピンからキリまであるので、あくまで『一般論としては』とご理解くださいね。
これが、「玉露茶と煎茶の良いトコ取りをしたお茶」と言われる由縁にもなっているんですね。
3.かぶせ茶の淹れ方ワンポイント
上述の通り、茶葉としては玉露的な旨みの強さと煎茶のようなさっぱりとした飲みやすさが同居しているため、淹れ方による味わいの変化が大きいのもかぶせ茶
の特徴です。
一般的には、玉露のように60度かそれ以下の低い温度のお湯で淹れ、その旨みを楽しむことが多いようですが、高温で淹れると多少苦みの効いた煎茶的なさっぱりした味わいで楽しめると言われています。
言ってしまえば、自分好みの味わいを出せる『お湯の温度』の工夫が楽しめるのも、かぶせ茶の特徴なのです。
4.おわりに
さて、ここまででかぶせ茶について説明を行ってきましたが、いかがだったでしょうか。
最近は露地栽培の茶畑で『じかがけ』被覆をする農家も増え、強いて「かぶせ茶」という名前ではなく単なる上級煎茶として売りに出されることも多いようですが、この「かぶせ茶」も日本茶の奥深い世界を支えるキーワードなので、ぜひ覚えておいてくださいね。
さぁ、今後もお茶について様々な角度から情報をまとめてお届けしていきたいと思いますので、またどうかご覧いただけたなら幸いです。
心安らぐひとときを 一杯の日本茶とともに。
それでは、また。
Comments